東京圏の電車は、数字のうえでは以前より空いているようですが、それでも、毎朝の通勤が楽になったと感じる人は、それほど多くないのではないでしょうか?
混雑が改善しているという統計と、目の前にある息苦しい車内。
この食い違いは、どちらかが間違っているからというわけでもなく「東京圏の平均」と「自分が毎日乗る一本の電車」は、まったく別のものだからといってもいいでしょう。
東京圏の平均混雑率は143%まで下がった
国土交通省が公表した2025年度の都市鉄道混雑率調査によれば、東京圏31区間の平均混雑率は143%となっているようで、コロナ禍前に150%台後半から160%台で推移していた時期と比べると、低い水準になったと言えます。
テレワークや時差出勤が広がり、毎日決まった時間に出社する人が減り、その効果が数字にも表れていると考えられます。
ところが、実際の朝のホームに立つと、改善を実感できない日がありますよね?
到着した電車を一本見送り、次の車両にも身体を押し込む。乗車中はスマートフォンを持ち替える余裕さえない。
こんな状況では「本当に混雑は緩和したのだろうか」と感じるのも無理はありません。
「平均」では毎朝のつらさを説明できない
この違和感の理由の一つは、平均値が路線ごとの差をならしてしまうことで、調査によれば、JR埼京線の板橋―池袋間が167%、東京メトロ日比谷線の三ノ輪―入谷間が163%、東西線の木場―門前仲町間とJR総武快速線の新小岩―錦糸町間が160%。
新交通システムまで含めると、日暮里・舎人ライナーの赤土小学校前―西日暮里間は176%になっていて、東京圏全体の平均が143%でも、通勤者が毎日利用する区間は160%を超えていることがまだまだあるんです。
それとは対照的に、中央・総武緩行線の代々木―千駄ケ谷間は93%、半蔵門線の渋谷―表参道間は111%となっていて、「東京の電車が平均的にどうなったか」と「自分の通勤がどうなったか」は必ずしも一致しません。
というのも、混雑は東京全体に均等に存在するのではなく、都心へ向かう特定の区間へ集中しているから。
混雑率は通勤者の疲労を直接表す数字ではないですし、混雑率が同じでも、区間ごとによって体感は変わります。
短い区間だけ混雑する電車と、長時間混雑が続く電車では疲れ方が違いますし、乗り換え回数、遅延の頻度、ホームの狭さ、車内温度、荷物の大きさによっても負担は変わってきます。
さらに、混雑率が以前より10ポイント下がっていても、依然として立ったまま身動きが取りにくい状態であることには変わりないんですよね。
そもそも100%を超えているわけですから・・・。
統計が示しているのは、輸送力に対して何人が乗っているかであり、通勤者がどれだけ消耗したかを測定しているわけではありません。
数字としては改善していても、生活の質が同じ割合で改善するとは限らないのです。
テレワークだけでは満員電車が消えない理由
在宅勤務の定着によって、通勤する人の総数は減ったとはいえ、それでも混雑が減らないのは、出社する時間と場所が大きく変わっていないからでしょう。
週5日の出社が週3日になっても、多くの人が同じ曜日の午前9時を目指せば、その時間帯には需要が集中します。
対面会議や朝礼、取引先の営業時間が従来のままであれば、個人だけが乗車時間をずらすのも簡単ではありません。
これは、通勤者一人ひとりの工夫だけでは解決しにくい問題で、社会全体で考えなければならない問題でもあります。
鉄道会社の輸送力だけでなく、企業の始業時刻、出社日の決め方、会議の時間、住宅と職場の位置関係までが混雑を生み出しているわけで、満員電車は交通だけの問題ではなく、働き方と都市構造が重なって生まれる現象なのです。
通勤を「仕方がない」で終わらせない
混雑率が下がったというニュースは、改善の兆しとして受け取れるのですが、平均値を見て「もう満員電車の問題は小さくなった」と判断するのは早計で、大切なのは、東京圏全体の数字だけでなく、自分が利用する路線、区間、時間帯を見ること。
もし選択肢があるなら、15分だけ乗車時間をずらしたり、混雑する区間を避ける経路と比較したりしてもよいでしょう。
所要時間が少し長くても、座れる経路のほうが一日の疲労を減らせるでしょうし、仕事する前から疲弊してしまうのは本末転倒。
勤務先にも、出社日ではなく出社時間を分散できないかという視点が必要で、従業員の作業効率を考えるとたった30分のズレを作るだけでも、能率は上がってくるもの。
平均143%という数字の裏には、176%の電車に毎朝乗る人もいれば、100%を下回る区間を利用する人もいます。
「以前より改善したはずなのに、まだつらい」という感覚は、わがままではなく、平均からこぼれ落ちた、自分の生活に関する正確な実感といってもいいでしょう。
数字は社会の変化を教えてくれます。
しかし、自分の暮らしを判断するときには、平均よりも毎朝の身体感覚のほうが信用できるんです。
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